大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(上)4号 判決 1951年5月29日

上告人 被告人 三好睦雄

検察官 山田四郎関与

主文

原判決を破毀し本件を熊本地方裁判所に差戻す

理由

原審検事白土八郎の上告趣意は末尾添付の上告趣意書と題する書面記載のとおりである

衣料品配給規則第四条は衣料品を譲受け譲渡す場合消費者は小売業者との間に於てのみ、小売業者は卸売業者及び消費者との間に於てのみ卸売業者は小売業者及び生産業者との間に於てのみ、生産業者は卸売業者との間に於てのみなすべきことを、同規則第五条はその譲受け譲渡す場合には配給割当公文書の記載するところに従い且つこれと引換えでなさねばならぬことを規定し何れも衣料を売買する場合の規定であることは明である。

翻つて本件公訴事実(一)を見るのにその要旨は

被告人は肩書住居地において繊維製品の販売を業としている者であるが法の許した場合でないのに、衣料品配給規則による割当公文書と引換えでなくして、熊本市紺屋町二丁目池田株式会社事務室において同社社員から昭和二十三年一月二十日頃手袋四百八十双を代金五万六千円、子供パンツ五百枚を代金三万七千五百円、綿タオル百八十枚を代金一万六千五百円、スフタオル二百四十枚を代金一万六千六百円で買受けて譲受けたと云うにあるが、若し裁判所が右公訴事実に示された被告人と池田株式会社との衣料売買は認められるがその売買は右規則第五条には違反しないで寧ろ右規則第四条に違反するものであると認めた場合はその公訴事実の基本である衣料の売買と云う事実は動かぬところであるから公訴事実の同一性ありとして右規則第四条違反の罪を以て問擬しなければならない。然るに原判決は公訴事実(一)の右被告人と池田株式会社との間における衣料の売買事実及びその売買が右規則第四条に該当する事実を認めながらそれについては公訴がないからとて直に無罪の言渡をしたがこれは法の解釈を誤つた違法の判決でありその違法は判決に影響を及ぼすこと明であるから論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第四百四十七条第四百四十八条の二第一項に則り原判決を破毀し本件を原裁判所に差戻すことにして主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 二階信一)

検察官の上告趣意

原判決は審判の請求を受けた事件について判決をしなかつた違法がある

即ち本件公訴事実の第一は

「被告人は肩書住居に於て繊維製品の販売を業としている者であるが法の許した場合でないのに衣料品配給規則による割当公文書と引換えでなくして熊本市紺屋町二丁目池田株式会社事務室に於て同社社員から昭和二十三年一月二十日頃手袋四百八十双を代金五万円、子供パンツ五百枚を代金三万七千五百円、綿タオル百八十枚を代金一万六千五百円、スフタオル二百四十枚を代金一万六千六百円で買受けて譲り受けたものである。」

と謂うのであるが右公訴事実につき原判決は「衣料品配給規則第五条は所謂正規のルートに於ける衣料品の譲り渡し、譲り受けの場合に限り割当公文書と引換えに譲り渡し、譲り受けねばならない旨を規定したものであり、本件に於て被告人が同規則による正規の小売業者として指定せられている者であることは認定出来るけれども池田株式会社が卸売業者として所定の登録を受けていたことについての証拠がないので同規則第五条に違反するものであるとは断じ難い」としているがこれはまことに所論の通りである。併しながら前記公訴事実は衣料品指定小売業者が所謂正規ルートによらずに、即ちブローカーから衣料品を譲り受けた事実(衣料品配給規則第四条違反の事実)をも包含していると解するのを相当とするのである。即ち両事実には同一性があると考うべきものである。

事実の同一性を判断する標準について基本的事実同一説なるものがありこの説が通説、判例(昭和二十三年(れ)第九〇五号、昭和二十四年一月二十五日最高裁判所第二小法廷判決)であること周知の通りであつて同説によれば事実が同一であるためには具体的事実として枝葉の点迄も同一である必要はなく基本的事実関係即ち重要な事実関係が同一であれば足りるものとするのである。更に敷衍すれば前法律的な生活事実として一つのものである以上構成要件的に相当の程度に重なり合うものであるときは事実の同一性ありとなすのである。これを本件について考えて見ると、衣料品小売業者として登録されている被告人が衣料品販売業者として登録されていない池田産業株式会社より衣料品を買受けた事実は右に所謂前法律的生活事実であり基本的事実関係である。此の事実が衣料品配給規則第五条違反の構成要件と、同規則第四条違反の構成要件とに相当な程度に於て重り合つていることは自明のことであり正に本件公訴事実が衣料品配給規則第四条の事実と事実の同一性ありとする所以である。

原判決は然るに検察官の本件公訴事実は衣料品配給規則第四条違反の点をも含むものであるとの主張に対し、簡単にこれを否定し去つている。以上の通り原判決は審判の請求を受けた事件について判決をしなかつたことに帰するので当然破棄を免れないものと信ずる。

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